menu

2021/06/30

高等学校

6月30日朝礼:校長講話

第7回朝礼講話 (2021.6.30)  第3次産業と感情労働

全校生の皆さん、おはようございます。新年度7回目の朝礼講話の時間です。前回は、芸術鑑賞日ということで、《カタルシス》についてお話ししました。

今朝は、感情の《ろ過作用》を意味する《カタルシス》を、私たちはますます必要とするようになってきたということ、それは裏を返せば、今日ほどストレスの多い時代は今までなかったということから話を始めようと思います。校長からの講話は今朝が1学期最後になりますので、普段より少し長くなりますが、お付き合いください。

 最初に、現代社会がなぜストレスの多い社会になったのか、その背景から見てみます。

 キーワードは、《3次産業》と《感情労働》という言葉です。  

皆さんは、社会の産業構造を分類するときに、3つのジャンルがあることを学んでいると思います。《1次産業》《2次産業》《3次産業》の3つです。《1次産業》は、農業・漁業などの分野です。《2次産業》は、クルマや家電製品などの工業製品を生産したり加工したりする製造業や建設業などの分野です。

そして、《3次産業》は、たくさんあります。例えば、テレビ・新聞などのメディア産業、携帯電話などの情報通信産業、旅行・観光などの娯楽レジャー産業、レストラン・デパートなどの接客業、病院や介護施設などの医療・福祉分野、その他、運輸・保険・金融、さらには学校などの教育分野など、実に多種多様な分野が《第3次産業》に含まれます。

こうした3つの分野で働く人々の人口比を、過去と現在で比較してみると、社会全体の変化も見えてきます。  

例えば、70年前の1950年には、農業などの《1次産業》で働く人々の割合は全体の55%でしたが、直近の2019年には、3%に激減しています。逆に《三次産業》は23%から73%に大幅に増加しています。70年間で、日本の社会が、途上国型から先進国型に変化したことがわかります。  

前置きが長くなりましたが、本題に入ります。

コミュニケーションという観点から3つの産業分野を比べると、農業などの《一次産業》と製造業などの《二次産業》には、共通点があります。それはコトバによるコミュニケーションは余り必要なく、重要なのは、黙々と仕事に集中し、専念することです。これに対し、《三次産業》は、多種多様な産業を含んでいるものの、実は共通点がひとつあります。それは、コトバによるコミュニケーションに仕事の成功・失敗、つまり成否がかかっている点です。相手に対する説明がわかりにくければ、まとまりそうだった話が壊れたり、逆に説明が適切であれば、決裂しそうだった交渉がまとまったりするなどということはよくあります。  

従って、《三次産業》に従事する人々は、コトバによるコミュニケーションに過剰なまでに心のエネルギーを費やさなければなりません。ホックシールドという社会学者は、《三次産業》に従事する人々の仕事を《感情労働》と命名しました。彼女は《バーンアウト》つまり《燃え尽き症候群》という言葉を世に広めたことで有名ですが、要するに、《三次産業》で働く人々は、常に相手の感情を優先し、自分の感情はできるだけ抑えて、相手の気分を害さないように絶えず注意を払わなければなりません。《いたわり》や《おもてなし》を意味する《ホスピタリティー》が強く求められるのも《三次産業》です。また、クレーマーやハラスメントの理不尽な攻撃にもさらされます。以上のように、感情の表出と抑制が、当事者の間で一方的でアンバランスなのが《感情労働》の特徴です。実にストレスの多い仕事です。中には、《感情労働》に疲れ果て、消耗した結果、ある日突然やる気を失ってしまう《バーンアウト=燃え尽き症候群》に陥ってしまう人も出てきます。しかも、こうした現象は、《三次産業》の現場以外でも、日常生活の様々な場面で、誰もが経験することです。  

では、どうすればストレスから解放されるのでしょうか。残念ながら、現代の社会で生きるかぎり、ストレスから解放されることは不可能です。AIには当然《感情労働》を行うことはできません。  

ストレスに負けないためには、やはり、コミュニケーション力を高めるしかありません。どんな場面でも、自分の考えや気持ちを、気負うことなく伝えることができる《しなやかな》心が必要になります。  

国本女子の皆さんが、やがて社会に出てストレスに負けないで活躍するためにも、今の学校生活を大切に過ごしてください。そして焦らず《コミュニケーション力》を磨いてください。国本での経験は、どれひとつとして無駄なものはないのです。皆さんなら出来るはずです。期待しています。   以上で朝礼講話を終わります。

 学校長 坂東 修三