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2021/09/08

高等学校

9月8日朝礼:校長講話

2021.9.8 (水) 2学期第1回朝礼講話

 

 

《Learn》から《Unlearn》へ (その1)

おはようございます。2学期第1回目の朝礼講話の時間です。

今回は、今日と来週の2回にまたがってお話しします。今日はPart 1です。

キーワードは英語のlearnとunlearnです。話のタイトルも「《learn》から《unlearn》へ」に設定しました。最初のlearnは「習う、学ぶ」の意味であることはすぐわかると思います。2番目のunlearnはどうでしょう。「学ぶ」のlearnに反対の意味を示す接頭辞のunがついています。unhappyのun-と同じです。「習う、学ぶ」のlearnに反対の意味を表すun-がついたunlearnの意味はどうなるのでしょうか。皆さんの方でも考えてみてください。ひょっとして、文字面にミスリードされて、「学ばない、勉強しない」の意味だと思っている人がいるかもしれません。本当の意味は、話の中でおいおい触れて行きますが、簡単に言えば、私たちが学習する知識や情報を鵜吞みにするのではなくて、その中に潜んでいる無意識の偏見や差別意識を見抜き、それを自覚的に捨て去る行為を《unlearn》と呼びます。言い換えれば、私たちが学ぶ意見や考えを、それがどのような前提の上に成り立っているのか意識的に検証する行為を《unlearn》と呼ぶのです。この単語は、来週話題にするポストコロニアル運動の理論家=ガヤトリ・スピバックという女性が多用する言葉です。彼女に関しては、Part2で触れる予定です。

話題を変えます。皆さんは、自動車メーカーのHONDAをご存じだとおもます。F1という自動車レースの最高峰の舞台で、今年はメルセデスやフェラーリという常勝軍団を抑えて、5連勝を飾っています。33年振りの快挙だそうです。ところが、突如F1レースから今年いっぱいで撤退することを発表しました。理由は、20年後の2040年までに、二酸化炭素のCO2 を輩出するガソリンエンジンの生産をやめて、すべてのクルマをEVの電気自動車やFCVの燃料電池車に全面転換するためと説明しています。温暖化防止の切り札になっている二酸化炭素の排出量をゼロにするカーボンフリーを達成するために、二酸化炭素排出の元凶と言われるガソリンエンジン車の生産をゼロにするとマニフェストしたのです。こうした動きはHONDAだけではありません。リーディングカンパニーのTOYOTAも二酸化炭素排出がゼロとなる水素エンジンに切り替える予定を公表しています。化石燃料を使って大量のCO2を排出し、地球温暖化の原因となるガソリン車を禁止して、EVに切り替える動きは、イギリスやEUが先行しています。こうした地域では、日本より厳しいルールで2030年や2035までに法律が施行される動きが顕著です。例えば、TOYOTAの経営を支える屋台骨になっている《ハイブリッド車》も禁止になるのです。《ハイブリッド車》は、ガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせることによって、少しでもCO2の排出量を減らすために考案されたメカニズムですが、ガソリンエンジンを使うために禁止となるのです。

化石燃料の石油をやめてクリーンな電気自動車のEVに切り替えるのは、大気汚染や地球温暖化の防止に役立つのは確かです。また、水素エンジンもCOの排出量はゼロです。その一方で、EVの動力源たるリチウム電池の原料となるリチウムやコバルトはどのようにして入手するのでしょうか。燃料電池車のFCVや水素エンジン車に不可欠な水素はどのようにして製造されるのでしょうか。

皆さんは、17項目の目標を掲げているSDGsの学習を通して、「クリーンなエネルギーを」という7番目の目標項目があることをすでに学んでいます。COを排出しないEVや燃料電池車は、たしかにSDGsの理念にかなっています。また、EVを支えるリチウムイオン電池は、クルマだけでなく、私たちが毎日使っている携帯電話や、パソコン、タブレット端末などのICT機器には、なくてはならない部品なのです。

前置きが長くなりました。本題に入ります。

リチウム電池に欠かせないリチウムは、現在その大半が、南米チリのアンデス山脈の西側にある地域の地下水から採取されています。地下水の中に濃縮されて含まれているリチウムは、地下水を蒸発させることによって採取されますが、問題は汲み上げられる地下水の量が膨大なために、生態系に大きな影響を与えているだけでなく、乾燥地域に住むチリの人々にとって貴重な淡水が不足するという事態が引き起こされているのです。生活用水の不足が、コロナの感染を一気に拡大したことも指摘されています。その一方で、先進国におけるリチウムのニーズは今後右肩上がりに上昇することは明らかです。つまり、先進国における温暖化や気候変動の抑制策の切り札としてもてはやされているリチウムは、他方において、その産出国である途上国の環境破壊をもたらすという皮肉な事態につながっているのです。ここで私たちは、《Learn》から《Unlearn》に思考回路を切り換える必要があるのです。つまり、地球環境や社会環境の改善を図りながら経済成長しようとするSDGsの理念は、理屈の上では、すべての国に恩恵をもたらすことを謳い文句にしながら、実際は先進国の利害を優先しているのではないのか、という疑問です。先進国における環境改善を、途上国における環境破壊という犠牲の上に成り立たせるという負の側面を、無意識に前提にしているのではないのか、という疑問です。私たちは、自分たちが学習する理論や考えが前提にしている事柄を常に問う必要があるのです。SDGsに関して言えば、実は先進国の利害を優先した理念だということがわかってきます。前提にしていることをあれこれ思考する行為を《Unlearn》と呼ぶのです。これは、最近よく耳にする《アクティブラーニング》などとは《似て非なる》ものであることを指摘して、第1回目のPart1を終えたいと思います。