menu

2021/09/29

高等学校

9月29日朝礼:校長講話

《2021年度 2学期第3回朝礼講話》2021.9.29(水)

 

校長:坂東 修三


《ロストジェネレーションとは呼ばせない》


おはようございます。朝礼講話の時間です。第1回目と第2回目は、長いお話に付き合って頂きました。聴いている皆さんもさぞ辛かったと思います。今朝は一回で終わらせます。


今朝のタイトルは《ロストジェネレーションとは呼ばせない》です。キーワードは《ロストジェネレーション》という言葉です。日本語では「失われた世代」と訳されることがおおいのですが、意味としては、学校を終えて社会に出ようとするとき、経済的不況の真っ只中で、就職口もほとんどなく、生きる上での希望や頼るべき価値観を持てなかった世代を表す言葉として使われます。皆さんが生まれた2000年代初頭に就職の時期を迎えた若者たちはまさにこの言葉に該当する世代です。1997年に経済バブルが崩壊し、名だたる大企業が次から次へと倒産し、日本社会が厳しい経済的大不況に見舞われた時期に学生時代を過ごした現在40代前半の人々が《ロストジェネレーション》つまり《失われた世代》に属します。この言葉のルーツは、第一次世界大戦後に大恐慌に襲われたアメリカで活動した小説家たちのグループの呼び名にあります。ヘミングウェイやフィッツジェラルドという作家たちの名前を聞いたことがあるかもしれません。彼らの作品には、いずれも、生きる意味や価値を見つけることができない若者たちが主人公として描かれています。


日本の《失われた世代》の若者たちが育った、2000年前後のバブル経済が崩壊した時期は《失われた10年》と呼ばれたりもします。正社員の口がほとんどないために、パートやアルバイトを転々とする《フリーター》という言葉が生まれたのもこの時期ですし、学校にも仕事にも参加できない《ニート》や《引きこもり》と呼ばれる若者たちが社会問題になったのもこの《失われた10年》の時代です。ポジティブな価値観や生きる希望を持ちたくても持てなかった彼らを責めることは出来ません。私たちは、自分たちが生まれる時代や育つ社会を選ぶことは出来ないからです。《失われた世代》の人々は、その特徴として心の中にぽっかりとあいた大きな穴を抱えていると評されたりします。さらには、心の中にぼんやりとした虚無感やニヒリズムも秘めているとも言われたりします。


今朝はなぜ《ロストジェネレーション》の話をしているのかと言いますと、驚かれるかもしれませんが、コロナ禍での中高生や大学生を《ロストジェネレーション・ジュニア》と呼ぶようになっているからです。最初の《ロストジェネレーション》を生み出したのは、バブルの崩壊という経済不況でしたが、現在の《ロストジェネレーション・ジュニア》を生み出したのは、コロナという《パンデミック》的規模の感染病です。経済と疾病という背景要因の違いはあるのですが、生きる上での希望やポジティブな価値観をもてないという点で、両者は似ていると言われています。若者や思春期の心の問題に詳しい精神科医の斎藤環さんは、コロナ禍で、学校や大学が休校になったり、行事や人生の節目節目の活動が軒並み中止や延期になり、他人との付き合いも減って、生活が単調になった結果、心の変調をきたす若者が大幅に増えていると指摘します。活動の自粛や禁止でストレスがかかる一方、ストレスを解消する方法がわからずに、心に生じた大きな空白を埋めるためにネットの世界にハマっていく《ネット依存症》の中高生が急激に増えているとも言います。また、コロナ禍で支え合う仲間との付き合いが減り、生きる指針も見失った女子高生の《希死念慮》、つまり自死が前年より75%も増えているとの厚労省の報告もあります。


ちょうど1週間前の水曜日に私たちは体育祭を実施しました。正直に言いますと、感染予防の観点から体育祭を実施することは大いに迷いました。中止にしている学校も多かったからです。しかし、中止によって、学校生活のメリハリが失われ、皆さんが共有する思い出となる行事がなくなれば、心の中にさらなる空白が生じることも心配しました。ぼんやりとした脱力感や虚無感のような雰囲気に学校生活が覆われることを懸念しました。大げさかもしれませんが、皆さんを《ロストジェネレーション・ジュニア》とは呼ばせたくなかったのです。


こうした不安の中で迎えた体育祭ですが、久しく忘れていた同世代との《一体感》や《連帯感》が鮮やかによみがえり、《心の躍動感》と《カタルシス》を味わうことが出来ました。事前の不安はまったくの杞憂に終わりました。同世代との対面でのコミュニケーションを図りながら、共通の目的に向かって同じ行動を共有することによって、自分たちが前向きな気持ちになれることを実感しました。何よりも、同じ体験を共有する仲間がいることは、自分が一人ぼっちの孤独な存在ではないことを教えてくれました。感染予防と全校行事を見事に両立して頂いた、高3の皆さんと体育科をはじめとした諸先生方のご努力に改めて感謝申し上げます。なによりも、体育祭という消えることのない思い出を、強い絆やつながりで盛り上げてくれた全校生の皆さんには称賛の言葉を届けたいと思います。


さて、長かった緊急事態宣言がようやく解除されようとしています。対面による交流が徐々に拡大していきます。これをきっかけに、感染予防に努めながら、遠のいたり薄らいだりしていた人間関係を徐々に再開してください。なによりも、人との対面によるつながりを大切にしてください。私たちも、皆さんを《ロストジェネレーション・ジュニア》と呼ばせないためにも、出来るだけ学校行事を実施する方針です。一緒になって、学校に活力と活気を取り戻しましょう。以上で、第3回目の講話を終わります。