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2021/10/27

高等学校

10月27日朝礼:校長講話

2021年度 2学期第5回朝礼講話》2021.10.27(水)

 

校長:坂東 修三

 

《エポケーから始めよう》

おはようございます。朝礼講話の時間です。今朝のタイトルは、《エポケーから始めよう》です。キーワードは《エポケー》という言葉で、皆さん初めて耳にする言葉だと思います。ルーツは以前話題にした《カタルシス》同様、古代ギリシャ語です。辞書的意味は「判断をしばらく停止する」こと、つまり、「思い込みや無意識の断定を控える」ことを意味します。もっと具体的には、私たちが日々「当然のことと思っていること」や「自明視していること (哲学では「所与」とか「デフォルト」と言います)」をいったんやめること、ペンディングすることを意味します。要するに、「ストップ!思い込み」ということです。皆さんが習った英語のイディオムを使えば、《Don’t take it for grantedあるいはDon’t take it natural》と言い換えてもいいと思います。《エポケー》というこの言葉を現代に復活させたのは、フッサールというドイツの哲学者で、現象学という現代哲学のルーツになっている分野を始めた人です。個人的なことになりますが、私は、20代の若かりし頃、フッサールや、彼の考えを引き継いだメルロポンティというフランスの哲学者の世界にかなりハマっていた時期があります。

 

エポケー》に話を戻します。フッサールがこの言葉を使って言いたかったことは、私たちが当然視していることの多くは、私たちの意味付けや解釈によって成り立っているということ、逆に言えば、意味付けや解釈を変えれば、当然なことも変えられる可能性があるのだということです。私たちが「当然なこと」として《自明視》していることの中には、実は、私たち自身がそう思い込んでいるために、変えることのできないもの、岩盤のように強固なものになっていることが多いのです。これは、とりわけ社会のもろもろの制度や慣習・しきたりなどに言えることです。私たちの社会の歴史は、社会制度や慣習の変化の歴史と言い換えることができますが、それは制度や慣習に対する意味付けや解釈が変化したからなのです。従って、歴史は、意味付けや解釈の変化の歴史と言っても過言ではないのです。

 

例えば、今月31日には衆議院選挙が行われますが、選挙権は、今では公職選挙法で18歳以上の男性にも女性にも等しく与えられていますが、男女に等しく権利が与えられたのは、第2次世界大戦後の1946年のことです。それまでは、男性でも納税額の多い人が、次に一般の男性のみに認められ、女性に選挙権が与えられるようになったのは、大日本帝国憲法の下での最初の選挙が行われた1890年から56年後のことでした。男性のみに与えられていた選挙権が男女に分け隔てなく等しく与えられるまで、56年もかかったことになります。

 

実は、1789年「自由、平等、博愛」を標榜する人権宣言を他国に先駆けて発出したフランスは、社会的正義をもっとも大事にする国ですが、そのフランスでも女性に選挙権が与えられたのは、日本と同じ1946年のことでした。人権宣言から157年もかかったことになります。

 

人権は、「人間の権利」の縮約語ですが、「人間」はフランス語で、単数なら《ロム (l’homme)》、複数なら《レゾム (les hommes)》と言いますが、英語ならば、「男性」を意味する《manとmen》にそれぞれ該当します。つまり、人間という言葉は、イコール「男性」のことで、「女性」は含まれていなかったことになります。1789年の《人権宣言》が、実は「男性の権利宣言」あるいは「男権宣言」に過ぎないと揶揄されたり、非難されたりする理由は、そもそも《人間》という言葉の意味付けや解釈が「男性」しか含まず、「女性」や、現在ならば「LGBTQ」の人々が排除されているからなのです。

 

このように、選挙という重要な社会制度も、その根本にある「人間」という言葉の意味付けや解釈が変わることによって、制度の在り方も大きく変化するのです。私たちは、制度を変革するために、意味付けや解釈の変更を求めて戦った人々の努力に思いを馳せ、投票という権利を行使するようにしましょう。選挙年令に達していない方は、どうぞ《模擬選挙》を想像して、心の中で投票行為を試みでください。そして、願わくは、私たち自身の中にある様々な《思い込み》に《エポケー》を適用し、学校生活の中で、変える必要があると思われることには、新たなる意味付けや解釈を加えることにトライしてみてください。変えることのメリットがデメリットを大きく上回る場合は、積極的にアクションを起こしてみてください。

 

今日のテーマは《ストップ!思い込み》《エポケーから始めよう!》です。以上で、2学期5回目の朝礼講話を終わります。お疲れ様でした。 (以上)