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2021/11/17

高等学校

11月17日朝礼:校長講話

《2021年度 2学期 第7回朝礼講話》2021.11.17(水)

 

校長:坂東 修三

 

タテ社会と《調和(ハーモニー)》という抑圧装置

 

おはようございます。2学期第7回目の朝礼講話になります。今回は、先月亡くなった中根千枝さんという文化人類学者と、同じく先月、ノーベル物理学賞を受賞した真鍋佳郎さんのお二人をとり上げたいと思います。タイトルは、「タテ社会と『調和』という抑圧装置」です。

 

先ず、中根千枝さんの方からお話しします。彼女が世に知られるようになったのは、日本社会が高度成長期の真っ只中にあった1967年に、『タテ社会の人間関係』という書物を出版してからです。この著書の中で、中根さんは、第二次世界大戦の敗北を経て、日本社会が急速に復興し、経済的発展を遂げたその背景に、日本独特の社会構造や人間関係があることを見抜き、誰にでもわかりやすい文体で経済復興の謎解きを披露したのです。

 

中根さんが挙げた日本社会の2つの特徴は、先ず、日本社会では個人の利害より組織や集団の利害が優先する集団主義的風土が強固に形成されていて、自分のことを犠牲にして、会社や組織に尽くす「滅私奉公」的な生き方「会社ファースト」的生き方をする労働者たちが経済発展の原動力になっていること、次に、組織の人間関係が、《上司―部下》や《先輩―後輩》のような《タテの関係》を土台に築かれているために、揺るぎない組織や集団の秩序が保たれることによって安定した経済活動が保障されていること、以上の2つでした。そして、最初の「会社ファースト」的集団主義は、定年まで雇用や生活を保障する《終身雇用制度》と結びつき、2つ目の《タテの人間関係》は《年功序列》という組織内部の支配原理と一体化して、両者が両輪となって日本の経済発展を支える要因であることを指摘したのです。

 

中根さんの指摘は、経済のグローバル化によって、経済競争がボーダレスな激しさを増す中で、日本企業の体力も低下し、《終身雇用》や《年功序列》が崩れつつある今日の新自由主義的経済状況でも依然として有効な分析ツールになっています。

 

例えば、別の著書では、日本人の「会社ファースト」的メンタリティーを表す例として、自己紹介の仕方の違いが示されています。一例として、ドイツ人の場合ならば、「私はカーデザイナーで、住んでいるのはミュンヘンで、BMWという自動車会社に勤めています」と自分の職業を最初に伝えるのに対して、日本人の場合は、「私はトヨタ自動車に勤めていて、愛知県に住み、カーデザイナーをしています」のように、所属する会社が何よりも優先するのです。

 

また、中根さんは、個人より組織を優先する集団主義と年功序列が、同調圧力や忖度をメンバーに押し付ける日本独特の組織風土をもたらしていると指摘するのです。具体的には、組織内の秩序を維持し、組織への忠誠心を醸成するために、「和」や「ハーモニー」や「調和」といった言葉でメンバーの反対意見や批判の声を小さな芽のうちに摘んでしまうやり方は代表的な手法です。こうした耳障りのいい言葉で、メンバーが自主規制するように、事前に雰囲気を醸し出したり、空気感を漂わせたりして忠誠を強いるのです。本来、《和》や《ハーモニー》は、議論や論争の後にたどり着き、手に入れるものであるはずですが、始めに《和》や《ハーモニー》を強調することは、健全な議論や論争を事前に封じ込めるための陰湿な抑圧装置になっていると断言しています。こうした手法は、長いスパンで見れば、組織の弱体化につながると警告するのです。

 

日本の社会では、「和を以て貴しとなす」という論語の一節が、組織の統制の手段として使われることが多いのですが、この言葉が使われる時には、公明正大な組織運営がなされていることが前提になっていなければなりません。残念ながら、日本の組織では、メンバーや社員の批判や不満を事前に封じ込めるために悪用されているのが実態です。

 

中根千枝さんが『タテ社会の人間関係』を出版した翌年の1968年に、中根さんが在職していた同じ東京大学を辞めて、アメリカのプリンストン大学で研究活動を再開し、先月、地球温暖化のメカニズムを解明した功績でノーベル物理学賞を受賞したのが真鍋佳郎さんです。真鍋さんは、受賞インタビューの中で、国籍をアメリカに変えた理由を訊かれて次のように応えています。「私は、調和の中で生きることができません。それが、日本に帰りたくない理由のひとつなんです」「日本の人々は、調和の雰囲気を壊さないために常に忖度し、心をすり減らしています。日本人が『イエス』と言っても、それは必ずしも『イエス』を意味せず、『ノー』かもしれません」真鍋さんのコメントは、私たち日本人には耳が痛い意見ではないでしょうか。日本人のコミュニケーションの窮屈さや抑圧性を見事に言い当てています。

 

最後に、「和して同ぜず」という同じ論語の一節を紹介して講話を終わることにします。このフレーズは、「意見が同じならば協力するが、意見が異なる場合は、へつらったり、おもねったりしてまで妥協することはしない」を意味することわざで、同調圧力の強い日本社会で、プライドや矜持を失わないための防波堤として役立つ格言です。国本女子の皆さんは、同調圧力に屈することなく、異を唱えることのできる強い心を身につけ、「和して同ぜず」の精神を実践できるようになってください。期待しています。以上で第7回目の朝礼講話を終了します。(以上)