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2021/12/01

高等学校

12月1日朝礼:校長講話《奪われる教育の機会》

《2021年度 2学期 第9回朝礼講話》2021.12.1(水)

 

校長:坂東 修三

 

ヤングケアラーと貧困(2) ― 奪われる教育の機会

 

おはようございます。今日から12月です。今年1年を締めくくるために、先ずは必要なことから着実にやり終えるようにしてください。

 

さて、2学期第9回目の朝礼講話になります。今朝のタイトルは、前回のテーマを踏襲して、『ヤングケアラーと貧困』です。今日はそのパート2になります。サブタイトルは「奪われる教育の機会」です。前回は貧困家庭の中で、本来は大人が担うべき家族のケアや家事を強いられている《ヤングケアラー》と呼ばれる中高生たちを例に挙げて、今、子供の貧困が拡大している状況を伝えました。

 

そして、ヤングケアラーも含めて、18歳以下の子供の《貧困率》が13.5%に達し、子供の7人~8人に1人が、本人が望まない貧困状態の中に置き去りにされている現実をお伝えしました。

 

今回は、最初に、なぜ日本社会で子供の貧困が増えてきたのかを確認したいと思います。子供の貧困の増加は、当然、保護者や家庭の貧困が増えたことの結果にすぎません。その歴史を駆け足で確認します。

 

かつて、1980年代までの日本社会は、「1億総中流社会」とよばれ、貧富の格差が少ないことが特徴でした。しかし、1997年のバブル経済崩壊後、企業の倒産が続く中、2004年に、それまで一部の業種にしか認められていなかったパートなどの非正規労働がほぼすべての業種に解禁・拡大された結果、フルタイマーの正規社員よりはるかに安い給料で雇うことができる非正規雇用の労働者が一気に増大しました。2006年には、安全重視の観点から非正規労働が禁じられていた病院などの医療の分野まで認められるようになり、文字通り全ての業種で解禁されるようになった結果、企業の人件費節約の手っ取り早い手段として日本社会に定着しました。

 

その結果、日本の働く人の数は、現在6,747万人いますが、そのうち38%の2,563万人がパートなどの非正規労働者です。ワーキングプアとも呼ばれる人々です。当然、賃金は低く、非正規で働く人の75%が年収200万円以下の暮らしを強いられています。先週お伝えしたように、日本の《貧困ライン》は190万円ですから、非正規労働者の約1,800万人が貧困生活を送っているのです。これが、日本における貧困の実態です。非正規で働く人々の家庭は大半が貧困家庭です。そして、貧困家庭が増えれば増えるほど子供の貧困も拡大していくのです。

 

では、子供の貧困の拡大は、何が問題なのでしょうか。やはり最大の問題は、進学や進路が狭まったり、制限されたりすることではないでしょうか。言い換えれば、本人の意志とは関係なく、生まれ育った家庭環境が裕福か貧しいかで、子供の現在や将来が左右されてしまうことが問題なのです。そしてさらに深刻なのは、貧困が、親の世代から子供の世代へと連鎖することです。非正規の人の家庭に生まれ育つ子供もまた非正規の労働者になるケースが多いのです。精神面でも、幼い頃から、収入の不安定な家庭の中でストレスや不安に苛まれながら育ってきた貧困家庭の子供たちは、他の子供たちとの共通した体験にも参加できないために、自信や自己肯定感を持てずに成長するケースが大半です。

 

国民の教育に関する権利を定めた『憲法26条』には、「すべて国民は、…その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と書かれていて、政府や自治体に「教育を受ける権利」を保障するように定めています。教育の憲法とも呼ばれる『教育基本法』の第4条には、「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地(=家柄)によって、教育上差別されない」と謳われていて、貧富などの理由のいかんにかかわらず、すべての子供に平等に教育の機会を与えなければならないと、《教育の機会均等》を強調しています。しかしながら、子供の7人~8人に1人が、貧困状態に苦しんでいる現状では、教育を受ける機会の均等や平等を掲げる憲法や教育基本法の理念そのものが揺らいでいると言わざるを得ません。そもそも、貧困状態の中では、どうして子供たちが「その能力」を発揮できるというのでしょうか。発揮したくても発揮できないというのが実情ではないでしょうか。

 

東京大学の研究チームが行った調査では、保護者の年間収入と高校生の進路に関して興味深いデータが示されています(東京大学 大学経営・政策研究センターの調査)。例えば、年収が400万以下の家庭では、大学進学率が23%なのに対して、1,000万円を超える家庭では、およそ4倍の90%に達しています。親の経済力と進学率が相関していることを如実に示すデータと言えます。つまり、貧富の格差が、そのまま教育の格差につながっているのです。

 

国本女子の皆さんにぜひ理解してほしいのは、子供の貧困が、決して本人たちの自己責任などではなく、制度の問題だということです。それどころか、この問題を放置し続けてきた政治の側の貧困こそ責められるべきなのです。さらに、政治の側のサポートを余り期待できない現状では、自立した女性として生涯生きられるように、自分の人生目標をしっかりと見据えて、時々の経済状況の影響を受けなくて済むように、資格を必要とする安定した職業や進路を模索する人生設計を考えてみてはいかがでしょうか。皆さんの前向きな姿勢を期待しています。以上で朝礼講話を終わります。(以上)