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2022/01/12

高等学校

1月12日朝礼:校長講話《コンコルド効果からの脱却》

2022.1.12 (水)  3学期第1回朝礼講話

 

校長:坂東 修三

 

《コンコルド効果からの脱却》― いつでも引き返す勇気を

 

全校生の皆さん、おはようございます。3学期第1回目の朝礼講話の時間です。今朝のテーマは《コンコルド効果からの脱却》、サブタイトルが《いつでも引き返す勇気を》です。タイトルの意味はのちほど説明します。

 

その前に、皆さんご存じのように、年が明けてから、コロナの感染がオミクロン株を中心に想定外の速さで拡大しております。こうした感染状況の悪化の中で、都内の私立校でも感染する生徒が急激に増えています。私たち国本女子でも、昨日、1名の生徒の感染が確認されました。安全を期して、念のため所属する高1の1クラスを今週いっぱい学級閉鎖し、該当するクラブも当面の間、活動停止の処置を講じることにしました。始業式でもお願いしましたが、全校生の皆さんには、緊張を緩めることなく、基本的な感染対策の徹底を改めてお願いすると同時に、自分の体調に変化が生じた場合には、速やかに医療機関を受診し、併せてその結果を学校に知らせてください。

 

さて本題に入ります。

タイトルの一部になっている《コンコルド効果》は、簡潔に言えば、《これ以上続けない方がいいとわかっていても、今まで費やした時間やエネルギーやお金がもったいないと感じて、やめられずに、ズルズルと現状を続ける》ことを指して使われる言葉です。要するに、《見込みのないことに執着して引き返せなくなる状態》のことです。ルーツは、皆さんが生まれる前の2003年に製造が終了になったコンコルドという超音速旅客機の名前から由来しています。コンコルドという音速の2倍の時速2千キロ以上で飛行するこの旅客機は、イギリスとフランスが膨大な開発費用を投じて、当時も現在も7時間かかる、ロンドンーニューヨーク、パリ―ニューヨークを、半分の3時間半で結ぶ《スーパーソニック》旅客機として鳴り物入りで登場しました。ところが、燃費が悪く、1回のフライトで膨大な燃料を消費し、料金も1名あたり120万円と高額で、乗客数はわずか100名、かつ騒音もまき散らすという問題だらけの飛行機で、飛べば飛ぶほど赤字が膨らむという事実が明らかになってきました。ところが、250機製造し販売すれば元が取れるという楽観的な予想のもと運航を続けたものの、30年間で実際に売れたのは、予想のわずか1/10の25機に留まったのです。製造コストもランニングコストもともに劣悪であるにもかかわらず、「もうすこし頑張れば黒字になる」「そのうち売れるようになれば採算がとれる」などと執着した結果、投入した資金は全く回収できなかっただけでなく、運航に伴って雪だるま式に膨らんだ途方もない借金までもが積み残る最悪の結果に終わったのです。これ以来、改善や回復の見込みのないことにこだわって泥沼状態を続ける行為や心理状態を指して《コンコルド効果》と呼ぶようになったのです。

 

そして、この《コンコルド効果》という言葉は、首都圏の中学受験を題材にして、最近ベストセラーになった朝比奈あすかさんの作品=『翼の翼』の中でも、登場人物たちが陥った心理状態を表すキーワードとして用いられています。

《翼》という名の男子小学生と、彼を有名進学塾から難関中学に合格させて、息子が《翼》というその名前通りにさらに《羽ばたく》ことを目指す両親との葛藤を描いたこの小説は、まるで中学入試で人生が決まるかのように子供たちや保護者を心理的に追い詰めていく現在の中学受験の厳しさや異常さを、登場人物を通してリアルに描いています。一般的に中学入試の塾は、1年間で学費が100万円はかかると言われていますが、主人公の《翼君》は、小学校の2年から入塾し、最初の頃は優秀な成績を収めていたのですが、学年が上がり、もっと優秀なライバルが増えてくるにつれて成績はドンドン下降し、6年生になると、かつて希望していた第一志望や第二志望の難関校への合格可能性はなくなってしまいます。

 

ここから母親だけでなく父親まで加勢して、精神的拷問のような特訓が始まるのです。罵詈雑言の言葉の暴力を浴びせられた《翼君》は、親の叱責を回避するために、ついにはカンニングにまで手を染めることになります。そのことによって、《翼君》は逃げ場のない袋小路に追い詰められていくのです。冷静な大人ならば、ここで入試を諦めて方向転換する決断に踏み切るのでしょうが、《コンコルド効果》に呪縛された両親にはもはや引き返す心の余裕はなくなっているのです。小学2年から払い続けてきた塾の学費や、それよりもなによりも、成績を上げるために費やしてきた時間とエネルギーを考えると引き返すことなどもはやできなくなっているのです。この後、物語は意外な展開を見せるのですが、興味のある方は、学校や公立の図書館で借りて読んでみてください。

 

失敗すること、負けること、損すること、傷つくこと、こうしたマイナスの結果が避けられないことが頭ではわかっているのに、辞められないのが《コンコルド効果》の怖ろしいところです。個人の人生の中では、進学・仕事・恋愛・結婚・子育て・介護などの様々な場面で《コンコルド効果》による縛りが起きます。また、企業や学校においても、大きなプロジェクトを挙行する際にも《コンコルド効果》による金縛りの結果、倒産や廃校などの道を辿ることを強いられます。

 

必要なのは、辞めたり、方向転換できる冷静な思考力と胆力すなわち勇気です。どうぞ、国本女子の皆さんも、今後の人生の参考にしてみてください。以上で朝礼講話を終わります。(以上)